ある人が死亡したら、その人の財産に属した一切の権利義務を一定の相続人が包括的に承継することを『相続』と言います。
すなわちわかりやすい例にすると、お父さんが亡くなったら、お父さんが残した財産、それは家・土地であったり現預金であったり株式であったりを、お母さんと子供とで分けるということですね。
私のように平凡な家庭に生まれ、平凡に育った人間には相続なんて、あまり関係がないように思われます。恐らくこれを読んでいる人の多くもそうだと思います。
例えば私の父が死亡したら、父は現預金はそれほどありませんから、強いて言えば約23坪の土地と建物だけが財産です。
たぶんそういうご家庭って多いと思うんですね。
普通、相続争いというと、ごく一部のお金持ちの世界のことだけだと思われがちですが、実は相続財産がわずかな土地だけだった、という家庭の方が骨肉の相続争いを繰り広げるのです。
平成16年の司法統計年報・家事事件編のデータによりますと、遺産価格が5千万円以下の争いが3000件余りと一番多く、続いて1000万円以下が約1800件、1億円以下が約1000件という順になっています。
つまり相続争いの大半はごく普通の家庭で発生しているということです。
では大金持ちはどうでしょうか?
同じ資料によりますと、実は5億円超という遺産分割が最も争いが少ないのです。わずか100件前後です。
これはどういうことを指すのでしょうか?
答えは実は冒頭に書いてある通りで、結局お父さんが残した財産は、土地・建物だけだった、という場合が圧倒的に多いからです。
では相続の流れについてざっくりと見てみましょう。
まずお父さんが亡くなった瞬間から相続は発生します。普通の家庭では遺言などないのが普通ですから、お父さんが持っていた財産は、全て相続人の共有ということになります。
これはどういうことかと言いますと、遺産分割協議が整うまで、お父さん名義で銀行に預けてあった現金などは、全て封鎖されてしまう、つまり引き出せなくなる、ということです。
一般的に相続人になるのは、お母さんと子供です。お母さんが既に他界していた場合は、子供だけということになります。
法定相続割合は、お母さん50%、残りの50%を子供の頭数で割ります。
例えばお父さんが2000万円相当の土地・建物を残して死亡したとします。残されたのはお母さんと子供2人。
この場合、お母さんが1000万円、子供が500万円ずつそれぞれ相続するということになります。
ところが、ここでお父さんが残したのは2000万円の現金ではありません。2000万円相当の土地と建物です。これをどうやって3人で分けるのでしょうか?
家を売って2000万円の現金に換えるというのも一つの方法ですが、それでは住む家がなくなってしまいます。
もし子供が2人とも結婚して独立していたらどうでしょうか?
老いたお母さんの住む家を奪ってまで子供が相続するでしょうか?
まぁこのような場合、子供2人は相続権を放棄して、全てをお母さんが相続するのが一般的かもしれません。なぜなら、いづれお母さんが死んだら、一切合切2人の子供のものになるのですから。
しかし現実的な話として、子供の1人が親と同居していた場合はどうでしょうか? わかりやすく子供二人は長男と次男とし、長男が同居していたとしましょう。
次男は簡単に相続放棄するわけにはいきません。もし本人が「この家はお母ちゃんとお兄ちゃんにやるわ」と言ったとしても、実はバックがいます。
そう、嫁さんです。嫁さんは必ずこう言うでしょう。
「なんでうちだけもらわれへんの。もらえるもんは絶対もらうんや!」
さて困ったことになりました。次男の相続額は500万円。しかしお父さんの遺産に現金はそれほどありません。お母さんと同居している長男にもそれほどの現金がありません。しかし次男に500万円払ってやらないことには、遺産分割協議がまとまらず、土地と建物の名義変更さえ出来ません。やはり家を売ってしまわないといけないのでしょうか?
それを防ぐ方法がたった一つあります。
お父さんの生命保険を活用するのです。
例えばお父さんは受取人をお母さんにして2000万円の死亡保険に入っていたとしましょう。
生命保険は受取人固有の財産ですから、遺産分割の対象になる財産ではありません。丸々2000万円お母さんが受け取ることが出来ます。
そしてその中から子供二人に500万円ずつ払ってやれば良いのです。そうすれば家を売ることもなく、スムーズに遺産分割が出来ます。
被相続人(死亡した人)の現預金は封鎖されてしまっても、生命保険なら現金で受取人に支払われます。
ここで一つ重要なポイントがあります。それは受取人を誰にしておかなければならないか、ということです。
例えばお父さんは生前次男のことを溺愛しており、次男を受取人に指定していたとします。すると大変なことになります。
次男はお父さんの生命保険金2000万円を受け取りますが、それでもお母さんと長男は次男に500万円を支払ってやらないといけないからです。
前述のように生命保険金は受取人の固有の財産となり、それを遺産分割の対象にする必要はないからです。
さて前置きが大変長くなってしまいましたが、もう少し具体的な例をあげてどうなるのか考えてみましょう。
例として、お父さんと長男・長女の家庭があったとします。お母さんは既に他界しています。長男は独身で親と同居、長女は結婚して家を出ています。
ある日お父さんが亡くなりました。
調べてみるとお父さんの遺産は、2000万円相当の土地、そして現金100万円でした。
さて問題発生です。長男はお父さんと同居していたわけですが、このまま住み続けるのであれば、長女である妹に1050万円を支払わないといけません。妹は兄と非常に仲が悪いため相続放棄は絶対にしない、と言っています。しかし長男にはそんな大金がありません。
ということで、実はお父さんが生命保険に入っていれば問題がないわけです。しかし受取人は長男にしておかなければなりません。間違っても長女にしていてはいけないのです。
長男は受け取った保険金から1050万円を妹に支払ってやればいいのです。これで遺産分割は円満解決です。
もし逆に長女が受取人であったとしたら、長男はもう最悪です。妹は保険金を受け取っていますが、それでも1050万円支払う義務が生じるからです。それが出来ないのであれば、家を売ってしまうしかありません。
例えばお父さんが土地以外に1000万円の銀行預金を残していたとしても同様です。
お父さんが亡くなった瞬間に預金は封鎖されます。したがってこのお金に手を付けることは出来ないのです。
しかし葬式代には300万円かかり、長男は途方に暮れています。この場合でもやはり生命保険が活用出来ます。
受け取った生命保険から葬式代を支払えばいいのです。
まぁこれが普通の家庭であれば、最悪長男は家を売っても良いわけですが、もしこの家庭が商売をしており、長男が家業を継いでいたらもっと大変です。家を売ったりしてしまうと商売が出来なくなるからです。
このように、実は普通の家庭であれば家庭であるほど、相続のことは真剣に考えておかなければなりません。
実家で親と同居している独身の方はよく考えてください。両親がいくらの生命保険に入っていて、受取人は誰になっているのか、きちんと知っておく必要があります。でなければ、万一の時に争いたくなくても争わざるを得ないこともあるのです。